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Vol.1 UEFA Champions League; Liverpool VS Chelsea, Anfield 28.09.2005

from NLW No.219 - October 04, 2005  
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下村えり
Eri Shimomura
リヴァプール在住のフローラル・デザイナー。ファンとして長年プレミアリーグをウォッチし続けるうち、日本からの取材コーディネートや原稿執筆を手がけることに。スカウス・ハウスのメールマガジン「リヴァプール・ニュース(NLW)」に『Footballの旅』と『リアルエールのすすめ』を不定期連載中。
【 まえがき 】
初めまして、スカウスハウスをご覧になっている皆様こんにちは!
フットボールレビューを中心に担当させて頂く事になりました、えりと申します。どうぞ宜しくお願いします。

私とフットボールの出会いは、ワールドカップ・メキシコ大会(86年)位からでしょうか。イングランドチームのFWガリー・リネカーに憧れて応援しだしたのが事の始まりと言えるかもしれません(良く有る話ですが...笑)。
それがもう20年も前のお話とは...
それからJリーグも始まり、世界のステージで日本代表がめきめきと力を付けて、私のサッカー熱にも更に愛国心がプラスされてきています。

イギリスでは、10数年マンチェスター Utd のサポーターです。
リバプールに移り住み、念願のユナイテッドのメンバーシップを手に入れる事が出来(リバプールのお隣がマンチェスターなので)、今では我が物顔の私ですが、実際のところ、マンUサポーターでありながらリバプールに住む事の難しさは驚く程身をもって知らされているところです。
それだけリバプールという街は、ローカル色の強い、イングランド北部の良きワーキングクラス(労働者階級)の匂いが漂う、魅力一杯な City だと思います。

これから、イングランド北部で繰り広げられる Football の素晴らしさを、幾らかでも皆様にお届け出来たら嬉しいな〜と思っています。

【 アンフィ−ルド 】
長雨で知られるイングランドの秋...この日もその例外では無く、昼過ぎよりコンスタントに降り続ける冷たい雨、そして風。更に『これでも9月!?』と言いたくなる様な気温でもあり、この日の私の装いは、長袖のTシャツ+タートルネックのシャツ+革ジャン+レインコートと4重包! それでも土砂降りの雨(cats & dogs !)のおかげで、傘を差しているにもかかわらずジーンズはびしょ濡れ。傘を持つ手もまるで氷のよう。
でも私が一番心配なのは、グランド(ピッチ)のコンディション。こんなんで良い試合が出来るのかしらと...

Liverpool の中心部より北部へバスで20分位、丘を登ると見えてくる Anfield の街。簡素な労働者階級の住宅街で、典型的な商店街が殺伐と並び、スタジアムの直ぐ傍には公園(Stanley Park)が広がっている。
多くのサポーターは、パブに入って試合前に一杯。友人らとフットボールトークに熱が入る。
或いは私の様に試合前の腹ごしらえ。ワーキングクラスタイプの安いカフェに入ると、いかにも人の良さそうなおばさんが、ニコニコ顔でオーダーを聞きに来る。もちろん、スカウスアクセントで。
メニューも典型的なイギリス家庭料理 Fish & Chips 、コーニッシュパイ(ひき肉+ジャガイモのパイ)にグリンピース、グレービーソース、等など。そしてもちろん、温かい Cup of Tea!
ローカル新聞 ECHO やタブロイド( Sun や Mirror 等)があちこちに散らばっていて、目に入ったのは本日のマッチへの意気込み。
「 Chelsea がリーグチャンピオンならば我々はヨーロッパのチャンピオンなんだから」
これには思わずニッコリ!

カフェを出ると怒涛の様な雨...小走りでスタジアムまで辿り着くと、そこは各国のジャーナリスト、TV局の大型トラックで一杯になっていて、さらに選手の到着を待つ子供連れの群れが、雨が降るのもお構い無く辛抱強く待ち続ける。
私も彼らに負けず、雨にもめげず、初めての Anfield を試合の前にぐるっと一周してみた。
そこにはリバプールFCの歴史を語る物が次々に目に入ってきた。

【 Liverpool FCの歴史 】
メインゲートの目の前に、両手を広げた Bill Shaukly の銅像が颯爽と、いかにもリバプールFCの栄光の歴史を誇るかの様に建てられている。
彼は60−70年代の有名な監督で、リバプールFCの名を一躍世界に広めた英雄である。You'll Never Walk Alone の歌も、彼を讃えて作られたものだそうだ。
リバプールFCは、1892年に John Houlding と言うオーナーから始まった。創立より百十数年の月日が流れ、これまでにリーグ優勝18回、FAカップ優勝6回、リーグカップ優勝7回、ヨーロピアンカップウイナーズ優勝5回、UEFAカップ優勝3回と輝かしい成績を残している。

なかでも昨日の出来事の様に記憶に残っているのは、今年5月、イスタンブールの Ataturk Stadium で行われたヨーロッパチャンピオンズリーグのファイナル、対 AC Milan 戦。3−0ディフィートで後半を迎え、“もう駄目だ” と誰もが思った時に奇跡が起きた。プレイヤー達の執念ともいえるカンバック...
あのスティーブン・ジェラードのPKはラッキーだと言えばラッキーかもしれない。だが、幸運はいつも実力と共に隣り合わせなもの。この試合に限らず、リバプールにはCL全体にラッキーな神様が付いていたと言えるだろう。

【 Hillsborough Memorial 】
Anfield Rd 側に周ると、かの有名なリバプールのフレーズ『 You'll Never Walk Alone 』のゲイトに出会う。
ふとその傍ら左下方に、蝋燭の火と花束が見える。これは、1989年4月15日の FA Cup 準決勝(Semi final)で起きた、リバプールFC設立以来の大惨事の犠牲者のためのメモリアルだ。2万5千人がリバプールから参加した Hillsborough で、試合が始まった直後に人が押し倒しになり、96人の Liverpool ファンが帰らぬ人になった。
このメモリアルには一人一人の犠牲になったファンの名前が刻まれており、今でもお花や蝋燭の火が絶える事が無い。

【 試合直前 】
試合前30分、スタジアムの中に入ろうとしたまさにその時、待ち受けていたかの様に雨がパタと止まり、青空までが覗き込んだ。ラッキー!
私の席は、メインスタンドの中盤後方で最高に良い眺めだった。
キックオフが夜7時45分。未だ少し時間があるのでスタジアム内を軽く探索へ...
するとイギリス人が大好きなフットボールベット(フットボールくじ、賭け)が目に入った。ベッティングスリップを見てみたら、今日の予想はチェルシーの方が6/5で優勢と出ていて、チェルシーに賭けても余り儲からないって事。
ちなみに0−0ドローは9/2でまあまあのオッズ。10ポンド(2千円)賭けて、45ポンド(9千円)の儲けって事になりますね。
席に戻ると、チェルシーの選手達がウォーミングアップをすでに始めており、彼らが出てくるや否やスタジアムから一声にブーイング...(笑)

会場は4万2千人のブットボールファンでビッシリ埋まり、リバプールサイドファン Kop Grandstand 側から巨大な Liverpool Europe Champion のロゴが入ったフラッグが会場狭ましと動き回る。
プレイヤーらがお互い握手を交わす頃には、一斉にリバプールのファンらが立ち上がり、Liverpool FC ロゴのスカーフを掲げて You'll Never Walk Alone の大合唱になった。噂には聞いてたが、ここまで凄いとは、脱帽!

私も結構な数のイギリス国内スタジアムを廻って色んな試合を観戦してきたが、はっきり言ってこれだけの観客の一体感を感じたのはこれが始めての様な気がする。周りの雰囲気にすっかり飲み込まれてしまった私はただ呆然...

【 Benitez vs Mourinho ベニテス監督 対 モウリーニョ監督 】
昨シーズンのチャンピオンズリーグの準決勝で苦い思いをしたチェルシーが、今回どの様に反撃して来るかが大きな見所だ。
モウリーニョ氏がポルトからチェルシーの監督に就任後、あっと言う間に効率的で攻守共にバランスのとれた素晴らしいチームを作り上げ、50年待ち続けたリーグチャンピオンに仕立て上げている。
チェルシーのサッカーは、「後方から組み立てて残りの選手がそれに従っていく」と言われるほど完全なデフェンスが出来上がっているのだが、それだけでは無い。MFからFWにかけての攻撃陣の顔ぶれも凄い上に、確実に点を取る事も忘れてはいない。昨年のプレミアリーグのレコードでは、総得点では2位に位置している。

対するリバプールの、今期2期目になるプレミアリーグ初のスペイン人監督、ベニテス氏。
彼はリバプール就任前はバレンシアを指揮し、2002年のチャンピオンズリーグではこのリバプールFC相手に完勝を収めているのだが、当の本人にとってリバプールを指揮する事は長年の夢だったとインタビューで語っている。
更に彼は、地元の熱狂的な応援と人情味あるリバパディアンの表情、スタジアムに響く合唱のすさまじさに、改めて『このクラブを成功に収めるのが、私の仕事だ』と言い切っている。
“リバプールの60−70年代の栄光を取り戻してくれ”との過大な再建を託された外国人の指揮官が、正に大きなプレッシャーの中、チャンピオンズリーグの優勝という輝かしいプライズを手に出来たことは、本当に素晴らしい事である。

【 CL Group G; Liverpool vs Chelsea 】
いよいよ、試合が始まった。
すっかり降り止んだ雨が、見事なコンディションの芝を美しく光らせていた。
リバプールは、前回のチャンピオンズリーグ準決勝の様に、最初から速いテンポで攻めてきた。
しかし、最初のチャンスを取ったのはチェルシーで、ゴール前30ヤード(25メーター)から Frank Lampard がキック。しかしリバプールゴーリー Reina の掌で弾き返される。

その後、リバプール Steven Gerrard やチェルシー Frank Lampard がゴール目掛けてハーフウェイシュートを放つが、全てオフターゲットで得点には結びつかない。

試合から19分過ぎ、フリーキックよりリバプールの Peter Crouch がヘッドでボールを落とす。それをゴール前で拾おうとした Hyypia にチェルシーの Droga がスライディングを仕掛けて、Hyypia が倒れる。しかしペナルティーにはならず、リバプールのファンから凄いブーイングが浴びせられる。

30分を過ぎた所で、最初から攻撃の手を緩めなかったリバプールにもパスミスが目立ち始めた。それを待っていたかの様にチェルシーの Robben がすかさず切れの良いドリブルで挑み、シュートを放つがこれも Reina によってバーの上へ跳ね返された。

前半を終え、後半56分、コーナーキックからのボールをリバプール Jamie Carragher がへダー。チェルシーのDF Gallas の腕にあたり、ハンドボールを訴えるが、またもやイタリアンレフリーにはペナルティーを認めてもらえない。

最後の10分はリバプールのラスト攻撃が集中的に繰り広げられたものの、結果0−0ドローの引き分けに終わることになった。
リバプールのコンスタントな攻撃とチェルシーの素晴らしいデフェンス。ドローゲームで終わったにも拘わらず、見所は大きかった。
チェルシーのあのデフェンスを崩すことがいかに難しいか、改めて実感した。しかしリバプールファンからすれば、2,3のペナルティーのチャンスを一つも取れなかったのは残念。その悔しさが、イタリアンレフリーに暴言として向けられたようだ。

私の個人的な意見としてはリバプールのFW Cisse が何時ものポジションを外れてて、余り調子が出ずにミスをしまくっていた事、そしてこの日ベンチ入りしていたMF Riise が使われなかった事が気になった。Riise は試合の流れを変える事が出来るアタッキングミッドフィルダーだから、彼を起用する事できっとリバプールにとって良い方向に向けたのではないかと...それが不満と言えば不満だったか。

中立の立場でカームに観戦するはずの私(実は Manchester Utd の13年来のサポーターです!)だったが、いつの間にか、横の若いお兄さん達のサポーターと一緒になって大声を出してリバプールを応援していた。
自分がいかにこの熱狂的な雰囲気に飲み込まれていた事か...

あらためて、人情味のある、情熱に満ちたリバプールの町全体に興味を持ち始めた次第...

下村 えり(Eri Shimomura)


【 マッチ・データ 】
 Champions League 05-06 Group Phase
 Liverpool VS Chelsea
 Anfield Stadium
 28 September, 2005  19:45 Kick Off
  リバプール チェルシー
スコア
ターゲットショット
オフターゲットショット
コーナーキック
ファウル 18 23
オフサイド
イエローカード
レッドカード
ポゼッション 54.2% 45.8%

 
Liverpool (4−2−3−1)
  Reina, Finnan, Carragher, Hyypia, Traore, Hamann, Alonso,
  Cisse(Sinama-Pongolle78)、Gerrard, Garcia, Crouch

 
Chelsea (4−3−3)
  Cech, Ferreira, Carvalho, Terry, Gallas, Essien, Makelele,
  Lampard, Duff(Crespo,75)Drogba(Huth, 90)、
  Robben(Wright-Phillips, 65)

from NLW No.219 - October 04, 2005

Copyright(C) 2007 Eri Shimomura & scousehouse

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